プロンプト地獄を抜けて見えたもの ── AIエージェント運用のリアル

前回の記事では、AI仮想オフィス「Office-Chronos」を完成させた私が、次のステップとしてAIエージェントの構築に挑み、「プロンプト地獄」にハマった話を書きました。

30時間以上をプロンプト設計に費やし、1つ直せば別が壊れるジェンガのような格闘を繰り返した末に、ようやくエージェントが動き始めた。

でも、それは「終わり」じゃなく「始まり」だったのです。

後編では、プロンプト地獄から何を学び、その後どう付き合っているのかを書いていきます。

動いた。でも「完璧」じゃなかった

3時間ごとにスケジューラーが回り、ニュースを拾い、KPIを読み、記事の下書きを生成する。朝と夕方にはレポートが届く。

エージェントは確かに動いていました。

でも、動き始めてから気づくことが山ほどあったんです。

たとえば、生成される記事の品質にムラがある。

あるときは「おっ、これいいじゃん」と思えるものが出てくるのに、次の回では「何を言いたいのかわからない」ものが出てくる。同じプロンプトなのに。

ニュース分析でも、的確にトレンドを拾えている日もあれば、まったく見当違いのニュースを「重要」と判断している日もある。

この「ムラ」が、地味にきつかった。

完全に壊れているならプロンプトを直せばいい。でも「たまにうまくいく、たまにダメ」だと、どこを直せばいいのかがわからない。問題の原因が見えにくいんです。

プロンプトは「生き物」だった

このムラと格闘するうちに、ある感覚が芽生えてきました。

プロンプトって、書いて終わりのものじゃない。生き物みたいなものだ。

一度書いたら完成、ではない。動かしてみて、結果を見て、直して、また動かす。その繰り返しがずっと続く。

考えてみれば当然なんです。エージェントが扱う情報は日々変わる。ニュースの傾向も変わるし、KPIの数値も変動する。同じプロンプトでも、入ってくるデータが違えば出力も変わる。

だから、プロンプトも環境に合わせて育てていく必要がある。

「完成」という概念がそもそもない。あるのは「今のところ、これが一番マシ」という状態だけ。

これに気づいたとき、気持ちがだいぶ楽になりました。

完璧を目指して苦しんでいたけれど、そもそも完璧なんて存在しなかった。「今日のベスト」を出し続けるしかないんだ、と。

地獄から持ち帰った「3つの武器」

プロンプト地獄は、ただ辛かっただけではありませんでした。あの格闘の中で、運用を楽にするための考え方が3つ見えてきたんです。

1つ目。ログから学ぶ。

エージェントが生成したものを「良かったもの」と「ダメだったもの」に分けて蓄積していく。感覚で「なんか違う」と判断するんじゃなくて、具体的に「この生成は○○だからダメだった」と記録する。

10例ずつくらい溜まると、パターンが見えてきます。「長い前置きが入ると質が落ちる」とか「データの渡し方を変えると論理の飛びが減る」とか。

勘じゃなくデータで判断する。これだけで、プロンプト修正の精度がだいぶ上がりました。

2つ目。プロンプトをモジュール化する。

前編で書いたように、エージェントのプロンプトは複数が連鎖しています。だからこそ、それぞれを独立したモジュールとして管理する。

要約用、戦略提案用、ツール呼び出し用。それぞれを分けて、個別に調整できるようにする。

こうしておくと、問題が起きたときに「どのモジュールが原因か」が特定しやすくなる。ジェンガ状態だったものが、少しずつ安定した構造に変わっていきました。

3つ目。数値で判断する。

「なんとなく良くなった気がする」では、改善が続きません。

論理的におかしな出力がどれくらいの頻度で出るか。1回の提案にどれくらいのトークン(AIが処理するデータの単位)を使っているか。ツールの呼び出しが成功する割合はどれくらいか。

こうした数字を追いかけるようにしたことで、「直すべきか、このままでいいか」の判断が感覚頼みじゃなくなりました。

この3つは、プログラミングの知識がなくても実践できます。必要なのは「記録する習慣」と「パターンを見つけようとする目」だけ。

誰も言わない「AIエージェントの本当のコスト」

エージェントを運用し始めて、もう一つ見えてきたことがあります。

AIエージェントのコストは、API料金だけじゃない。

表のコストは分かりやすい。私の場合、APIの利用料は月に5,000円から8,000円くらい。これは想定の範囲内でした。

でも、裏のコストが想像以上に大きかった。

プロンプト設計に数十時間。そしてエージェントが動き始めた後も、週に1〜2時間は微調整に使っている。ログを確認して、出力を評価して、プロンプトを少し書き換えて、また様子を見る。

この「運用メンテナンス」の時間は、エージェントが動いている限りずっと続きます。

SNSで見かける「AIで自動化!」という言葉の裏には、この見えないコストがある。自動化は「タダ」じゃない。初期投資としてのプロンプト設計と、永遠に続くメンテナンスが必ずセットでついてくる。

これを知った上で始めるのと、知らずに始めるのとでは、壁にぶつかったときの心の持ちようがまるで違います。

私は知らずに始めた側でした。だからこそ、こうして書いています。

それでも、作ってよかった

ここまで読むと「大変すぎるからやめたほうがいい」という話に聞こえるかもしれません。

でも、そうじゃないんです。

プロンプト地獄を経て、週に数時間のメンテナンスを続けて。それでも、AIエージェントを作ってよかったと思っています。

なぜか。

  • 寝て起きたら記事が出来上がっているという体験
  • AIエージェントを子供のように育てる体験
  • AIの裏側を知り、学ぶ体験

これらのことを一度体験したら、やめられなくなってしまったのです。

プロンプトをなおす時間は、「つまらない」と感じることも少なくはありませんでした。しかし、数十時間のプロンプトの格闘を終えたことで、AIの仕組みが見えてくるようになったのです。

ここで得た体験はわたしにとっての大きな学びとなりました。上辺丈のAI論に流されない、そんな自分に慣れた気がします。

これからエージェントを作る人へ

最後に、これからAIエージェントに挑戦しようとしている人に向けて。

私の経験から言えることは、とてもシンプルです。

プロンプト設計には時間がかかる。それは普通のことだ。

10時間、15時間、あるいはもっとかかるかもしれない。でも、それは失敗じゃない。エージェントを作るとは、そういうことです。

そして、最初から完璧を目指さないこと。

私のエージェントも、最初はドラフトチェックが手動のまま試運転を始めました。全部を自動化してから動かすのではなく、動かしながら直していく。「完璧」より「動いて改善」。このスタンスでなければ、プロンプト地獄に心が折れていたと思います。

もう一つ。いきなりエージェントから始めないこと。

まずは単発の生成から。「記事を書いて」「このデータを要約して」というシンプルなやり取りで、AIとのコミュニケーションに慣れる。そこからプロンプトの書き方を覚え、少しずつ複雑なことをやっていく。

私もいきなりエージェントを作ったわけではありません。Office-Chronosという仮想オフィスを作り、クラウド環境の構築で鍛えられ、AIとの付き合い方を学んだ上で、ようやくエージェントに辿り着いた。

順番があるんです。

そして最後に、これだけは伝えたい。

非エンジニアでも、AIエージェントは作れます。

ただし、簡単ではない。プロンプト地獄は来る。15時間かかるかもしれない。完成後もメンテナンスは続く。

でも、その先には「自分の代わりに動いてくれる存在」がいる世界が待っています。

プロンプト地獄は確かに辛い。でも、抜けた先の景色は、入る前には想像もできなかったものでした。


この記事は、約2ヶ月前の体験を振り返って書いています。 前編:AIエージェントを作ったら「プロンプト地獄」が待っていた